くだもの・科学・健康ジャーナルHP > 果物&健康NEWSトップ >
  ほぼ週刊メールマガジン「果物&健康NEWS」

第196回
 プロフェッショナルインタビュー:佐藤義彦さん

  




■□ 果物&健康NEWS Vol.196
□■  2008年5月9日(金)


みなさん、こんにちは。お元気ですか。
特集は「プロフェッショナルインタビュー:佐藤義彦さん」です。
新鮮、おいしい、メルマガをゆっくりとお楽しみください。
────────────────────────
毎日くだもの200グラム以上食べましょう!
公式ホームページは http://www.kudamono200.or.jp
果樹農業は未来を拓く! Do! our BEST.

:::■ メニュー ■::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 ◇ くだもの健康豆知識:ビン詰め、缶詰
 ◇ 今週のレシピ:セイヨウナシ缶詰
 ◇ プロフェッショナルインタビュー:佐藤義彦さん(前編)
 ◇ 品種紹介:なし中間母本農1号
 ◇ プロフェッショナルインタビュー:佐藤義彦さん(後編)
 ◇ 文献紹介:リンゴやブドウで初期の動脈硬化予防
 ◇ 読者から:日本語で文献検索
 ◇ 果物花便り:弘前りんご公園
 ◇ 文学の中の果物:山の春(高村光太郎)
 ◇ 今週の果物
 ◇ ナツミカンの産地は?
 ◇ 今日のフォト
 ◇ 編集部より



□ くだもの健康豆知識:ビン詰め、缶詰

 果物がない季節でも缶詰があれば食べられます。缶詰の歴史は今から約200年前のビン詰めの発明から始まります。1804年にフランスのニコラ・アペールにより、食料を密封して加熱しビンに詰めることで長期に食料を保存する方法が発明されました。

 1864年、ルイ・パスツールにより食料の腐敗に微生物が関与することが科学的に証明される約60年も前に殺菌技術が開発されていたことになります。

 缶詰は、1810年にイギリスのピーター・デュランドにより発明されました。これにより、食品を長期間保存出来るだけでなく携行が容易になりました。

 日本では、1871年に長崎でフランス人の指導のもとでイワシ油漬の缶詰が作られたのが始まりといわれています。




□ 今週のレシピ:セイヨウナシ缶詰

○ マンゴーと洋ナシのタルトパイ

材料
 洋ナシ缶詰、マンゴー缶詰、パイシート 、カスタードクリーム、卵黄、など

作り方と出来上がりの写真は下記のサイトです。
http://www.daiwa-can.co.jp/cooking/boshu039.html


○ 炊飯器と缶詰でつくる洋ナシのケーキ

材料
 洋ナシ(2つ割り) 1缶、缶汁 大さじ3杯、マーガリン 20g、卵 1個、ホットケーキミックス 70g、アーモンドプードル 30gなど

作り方と出来上がりの写真は下記のサイトです。
http://cookpad.com/mamihide/recipe/164485/




□ プロフェッショナル・インタビュー:佐藤義彦さん(前編)

 皆さんこんにちは。
 今日は、育種や遺伝資源の研究のプロフェッショナルである農研機構果樹研究所の佐藤義彦さんに研究の秘話などをお聞きしたいと思います。
 佐藤さん、宜しくお願いします。

Q:まず最初に、こだわりの研究というか、研究のライフワークについてお聞きしたいと思います。
【佐藤さん】 若いときからいろいろな研究に取り組んできましたが、結果的に、私のライフワークと言えるようなものは、ニホンナシの自家不和合性の遺伝的メカニズムの解明と自家和合性品種の育成です。

Q:自家不和合性とは、同じ品種の花粉では果実が実らないことですよね。
【佐藤さん】 そうです。ニホンナシの栽培で労力のかかる仕事の1つに春の受粉作業があります。約30年前、自家和合性品種である「おさ二十世紀」が品種登録されましたが、この品種の出現をきっかけにこの仕事の可能性が広がってきました。

Q:自家和合性品種の育成はどこまで進んでいますか。
【佐藤さん】 実際には、私がかつて所属していた育種第2研究室(現:ナシ・クリ・核果類研究チーム)で行われているのですが、現在、最初の交配から2〜3世代目で、系統適応性試験の段階です。系統適応性試験では、農研機構果樹研究所で選抜された系統が、全国の試験場で地域適応性や栽培特性などについて評価されます。

Q:もうすぐ自家和合性品種が育成されますね。メカニズムの解明の方はどうですか。
【佐藤さん】 「二十世紀」は雌しべと花粉の両方が共に不和合性に関与するS2、S4と呼ばれる遺伝子を持つため受精できないのですが、「おさ二十世紀」は雌しべ側のS4遺伝子だけが変異したため不和合性が打破され和合性になったことが分かりました。

Q:植物界には不和合性を示す多くの植物がありますが、すべてニホンナシと同じメカニズムで説明できるのですか。
【佐藤さん】 すべてではありませんが、ナシ、リンゴ、オウトウ、ウメなどのバラ科植物、トマト、ペチュニア、タバコなどのナス科植物などです。一方、アブラナやダイコンなどの十字花植物は別のメカニズムのようです。 

Q:沢山の新品種育成に関わってこられましたが、こだわりの品種はありますか。
【佐藤さん】 こだわりの品種というのは特にありませんが、現在、ナシ・クリ・核果類研究チームで育成中の自家和合性品種には期待しています。

Q:早く品種になると良いですね。ところで、育種調査の最盛期には、1日どのくらい果実を食べるのですか。
【佐藤さん】 ニホンナシを例にとれば、最盛期には1日に200個体くらい調査しています。すべて食味調査するわけではありませんが、調査が終わるとナシなど見たくなくなります。

 ---後編に続く---




□ 品種紹介:なし中間母本農1号

 「なし中間母本農1号(なしちゅうかんぼほんのう1ごう)」は、「おさ二十世紀(おさにじっせいき)」と「おさ二十世紀」を交配して出来た自家和合性の品種です。樹性はほぼ「おさ二十世紀」と同じですが、黒斑病に対して抵抗性であることが特徴です。そのため「おさ二十世紀」より後代における黒星病抵抗性個体を効率的に得られると期待できます。また、後代の自家和合性個体の自家結実率が実用的に問題がないことから、自家和合性品種育成を進めるための交配親として有用です。


「なし中間母本農1号」の果実の写真は下記のサイトで見られます。
http://ss.fruit.affrc.go.jp/kajunoheya/
ikuseihinsyu/data/hinsyu/cu-nashicyunou01.html


【用語解説】中間母本とは

 中間母本とは有用な1つ以上の形質について優れた遺伝特性を備え、その特性が持続し、新品種育成のための母本として効率的に利用可能な系統のことです。




□ プロフェッショナル・インタビュー:佐藤義彦さん(後編)

Q:新品種を世に送り出すことは、「子供を育てるようなものだ」と言われますが、どういうことですか。
【佐藤さん】 品種で欠点のないものはないと思います。例えば、ニホンナシの代表的品種「幸水」も世に出たときは果実が小さい、花芽が着きにくく収量が低い等の欠点が指摘されていました。
 しかし、果実が美味しい特徴を生かすために、都道府県の試験場、普及指導員、先進的な農家と共同して欠点を克服してきました。その点では「産んだ子を育てる」と言えるかもしれません。ただ、最近、この品種を育てる力が弱くなったように思います。性急すぎる評価と欠点の過度の指摘で良い品種が育たないような状況です。

Q:残念な状況ですね。ところで、遺伝資源の探索で海外に行かれることも多いと思いますが、普段の海外旅行と違う対策をしているのですか。
【佐藤さん】 現在、農研機構果樹研究所ではニホンナシがおよそ500品種・系統、果樹全体では8,500品種・系統あまりの遺伝資源が保存されています。
 さらに、遺伝子の変異の幅を拡大するために主に発祥地やその周辺地域で遺伝資源の探索を行っています。現地では、何があるか分からないため、A型肝炎、破傷風の予防接種の他にコレラや狂犬病の予防接種を行います。時にはマラリア対策も必要となりますが予防接種は残念ながらありません。

Q:狂犬病もですか。
【佐藤さん】 そうです。遺伝資源探索では農家の庭先などに入るので狂犬病の犬に噛まれる可能性があるからです。狂犬病は死に至る怖い病気です。また、人に感染する鳥インフルエンザが発見された東南アジアなどにも行かなくてはなりません。

Q:話は変わりますが、研究の楽しい時とつらい時を教えて下さい。
【佐藤さん】 なかなかそうはないのですが、実験結果が、実験を始める前に立てた仮説どおりだった時はうれしいですね。逆につらい時は、これは度々ありますが、仮説が実験で否定された時です。自分の至らなさとか理解不足なんだろうかなどと考えてしまいます。

Q:別の人生があるとしたら何になりたいですか。
【佐藤さん】 やっぱり育種やそれに関連する研究など、本当に農家などに役立つ仕事に就きたいですね。でも、最近の研究環境を考えるとチョット躊躇するところもあります。

Q:研究者を目指す若い人に、アドバイスをお願いします。
【佐藤さん】 若いうちは無駄だと思われることをいっぱいやって欲しいと思います。そうすれば研究者としての幅を広げられるだけでなく、研究の醍醐味も十分に味わえます。ただ、残念なことに、現在は、論文至上主義といえるほどの状況で、若い人にゆとりを持ちなさいと言えない状況です。

Q:ところで毎日果物をどれくらい食べていますか。
【佐藤さん】 果物のシーズンにはたくさん食べています。年間を通してなら最低でも200グラム以上は食べてますよ。

Q:趣味は何ですか。
【佐藤さん】 テニスを少しやっています。サッカーなどのスポーツ観戦も好きです。出身地のチームということで清水エスパルスを応援しているのですが、なぜかテレビ観戦すると負けるのですよね。

そうゆうことってありますよね。
今日は長い間ありがとうございました。
最後に、写真を撮らせていただいてよろしいですか。

佐藤義彦さんの写真は下記です。
http://www.kudamononet.com/kkr/snapshot/pro_sato.html
  (掲載は次号まで)





□ 文献紹介:リンゴやブドウで初期の動脈硬化予防

 リンゴ、ブドウ、リンゴジュース、ブドウジュースで初期のアテローム性動脈硬化予防できるとフランスの研究チームが発表しました。

 ハムスターを使った実験から、リンゴとブドウとそれぞれのジュースを摂取すると大動脈のアテローム性動脈硬化症の減少が観察されました。その理由として研究者らは、リンゴやブドウに含まれているポリフェノールの抗酸化作用により血管が保護されるためと考えています。

【文献】
Decorde, K. et al.: Phenolics from purple grape, apple, purple grape juice and apple juice prevent early atherosclerosis induced by an atherogenic diet in hamsters. Molecular Nutr. Food Res., 52: 400-407. (2008)




□ 読者から:日本語で文献検索

 こんにちは。いつもメルマガが配信されることを楽しみにしています。
 今回の特集にもあった文献検索の「PubMed」ですが当たり前のことですが英語ですよね。。。英語がほとんどできない人間にとってこれらを使いこなすのは本当に大変で調べたいような研究があったとしてもそれを「見つけた!」と喜べる機会はほとんど素人ではみつかりません。どこかの大学で日本語検索用のサイトがあったと思いますがあまりヒット率は高くなく・・・これらの解決する方法ってありませんか?教えてください。 (神奈川県:ばななんぼ)

【編集部より】
 メールありがとうございました。PubMedは英語で作成されているデータベースですが、和英・英和辞書、医学事典と翻訳ソフトで英語の壁を低くすることが出来ます。インターネットの発達でこうした辞典類が無料で利用できるようになったので、使い慣れると日本語でもかなりのことが分かります。次号の特集で詳しく紹介します。




□ 果物花便り:弘前りんご公園

 青森県弘前市にあるりんご公園で、5月9日(金)から18(日)まで、「りんご花まつり」が開催されます。主なイベントは、ミニSL運行、りんごジュースの試飲、りんごドーナツの実演販売、津軽昔語り、三味線ライブなどです。

りんご公園のホームページは下記です。リンゴの花のライブ映像も見られます。
http://www.hi-it.net/~ringo-kouen/




□ 文学の中の果物:山の春(高村光太郎)

 ほんとうは、三月にはまだ山の春は来ない。三月春分の日というのに、山の小屋のまわりには雪がいっぱいある。雪がほんとに消えるのは五月の中ほどである。つまり、それまで山々にかぶさっていた、氷のように冷たい空気が、五月頃になると、急に北の方へおし流されて、もう十分あたたかくなっている地面の中の熱と、日の光とが、にわかに働きだして、一日一刻も惜しいような山の春があらわれ、又たちまちそれが夏にかわってゆくのである。東北の春のあわただしさは、リンゴ、梅、梨、桜のような、いわゆる春の花の代表が、前後する暇もなく、一時にぱっと開いて、まるで童話劇の舞台にでもいるような気を起させる。これは四月末のことであって、三月にはまだその自然の花々は固い木の芽の中にねむっているのだが、雑誌の三月号といえば、もう誰でも春の話をするにきまっているし、また事実、上野公園あたりの彼岸桜の蕾(つぼみ)は毎年きまってほころびはじめる。日本の国は南北に長いので、季節がこんなにずれていて、おかしいようでもあり、又それがおもしろくもおもえる。北の方ではラッセル車が出るというのに、南の方では桃の花が村々にのどかに咲く。



高村 光太郎(たかむら こうたろう)
 1883年3月13日-1956年4月2日。彫刻家、評論家、詩人。東京都出身。本名は光太郎(みつたろう)。詩集「道程」、「智恵子抄」、彫刻「手」、「裸婦像」、「乙女の像」などがある。




□ 今週の果物

 福岡市では、地元産の甘夏ミカンなどカンキツ類やブドウ(「デラウエア」、「巨峰」)、イチゴ、ビワが人気です。その他、熊本産のメロン、スイカ、青森産のリンゴ(「ふじ」、「王林」、「ジョナゴールド」)なども堅調です。 (福岡市青果物日別取扱高統計から)




□ ナツミカンの産地は?

 ナツミカンの産地は熊本県で収穫量の22%を占めています。ついで愛媛県が19%、鹿児島県が15%、和歌山県が9%、静岡県と三重県が8%です。収穫量は平成18年で5万8千トンですが、年々減少しています。

平成18年産ナツミカンの収穫量及び出荷量は下記のサイトにあります。
http://www.maff.go.jp/toukei/sokuhou/
data/natsumikan2006/natsumikan2006.htm





□ 今日のフォト

 農研機構果樹研究所の期待の品種「せとか」の親が一目で分かるパネルが所公開日に掲示されました(写真)。「せとか」は種がなく250g程度と大きく、剥皮性も良く、糖度も高く食味良好です。

http://www.kudamononet.com/kkr/snapshot/KK-News42.html
  (掲載は次号まで)





☆ 編集部より ☆

 連休はいかがお過ごしでしたか。もうすぐウメ、サクランボが旬となり、次いでモモ、ナシと続く果物の季節となります。果物&健康NEWSの200号もカウントダウンの段階になりました。(tnk)

 G.W.も終わり、しばらく連休のない期間が続きます・・・。この時期になると以前住んでいた茨城県の栗の産地で初めて体験した栗の花のにおいを思い出します。衝撃的でした。(KT)




 果物&健康NEWS ご愛読に感謝申し上げます。

 無断転載はお断りします。 リンクは自由です。

 詳しくは、著作権、リンクについて に記載しています。

 ご協力に感謝いたします。  編集長 敬白

Copyright 2004-2008 田中敬一. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.



メルマガ果物&健康NEWS登録




サイト案内




くだもの
はたらき



果物と糖尿病予防


果物&健康Newsへ戻る
果物&健康Newsへ戻る


くだもの・科学・健康ジャーナルへ
くだもの・科学・健康ジャーナル
ホームページへ戻る