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 ■ 果物摂取で老化予防
      
長寿とくだもの

老化を防ぐホルモン「クロトー」の発見


 
      
□ 長寿とくだもの

 「人生50年」の時代は終わり、わが国では、世界一の長寿国(男:78.64才、女:85.59才/平成16年)となりました。しかし、一方で「寝たきり」や「介護」「痴呆症」など、高齢化に伴う問題も多くなってきています。いくら寿命が長くなったといっても、「痴呆症」などが進んでは元も子もありません。そのため、「死ぬまで元気でいること」が最高のことだと言われています。

 明治24-31年の日本人の平均寿命は、男性が42.8歳、女性は44.3歳でした。昭和になっても第2次世界大戦後までは50歳に届かず、50歳を越えたのは昭和22年のことでした。この頃、北欧ではすでに70歳でしたから、わずか50年間で追いつき、追い抜いてしまいました。これには乳幼児死亡率の低下や結核死の減少など、医療技術の進歩が貢献しています。しかし、もっとも本質的なことは、予防医学や栄養学の進歩が基礎になっていると考えられています。予防医学の面では、地域・職場での健康診断や人間ドックの普及、栄養学の面では、戦後の低タンパク質、低脂肪、高炭水化物食の開発途上国型の食事から、タンパク質、脂肪の摂取が増加し、タンパク質:脂質:炭水化物の比が栄養学的に適正な値に近づいたためと考えられています。こうした栄養学的な改善、予防医学が進んだのは、識字率が高いことが貢献しているとされています。

 摂取する食品の重要性は、東京都老人総合研究所の10年以上の調査でも明らかとなっています。この報告から栄養とともに運動、血圧のコントロールも老化防止に有効な因子であることも分かりました。また、平成11年に健康・体力づくり事業財団が実施した100歳以上の長寿者(4,688人)を対象とした調査(百寿者調査:全国100歳以上の老人1/2サンプルの横断的研究)では、ご飯、パン、麺などの主食を男女とも約9割近くが「毎食」食べており、野菜類も「ほとんど毎日食べ」ている方が約9割を占めていました。果物は、男女とも約6割が「ほとんど毎日」摂取しており、「ほとんど摂らない」のは約3%と非常に少ないことが分かりました(表1)。また、驚いたことに、魚や甘いものを抑えて、百歳を越えられた人の好きな食品の第1位は果物でした(表2)。

 以上のように、百歳を越えた人は男女ともに果物が大好きなことが分かりました。男性の長寿世界一であった福岡県の中願寺雄吉(114歳)さんは、リンゴジュースを好んで飲んでいたようです。また、長寿世界一だったオランダのHendrikje van Andel-Schipper(女性,115歳)さんは、114歳の時のインタビューで「毎日1杯のオレンジジュースを飲んでいる」と答えています。このことだけで果物を食べていれば百寿者になれるとは科学的には言えませんが参考になる情報です。

表1 百寿者の果物の摂取頻度(%)
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          男性  女性
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ほとんど毎日     60.3  64.6
1回/2日       17.3  18.1
1〜2回/週     19.7  14.1
ほとんどとらない   2.7  3.2
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表2 百寿者の一番好きな食べ物(%)
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 1位  果物      18.5
 2位  魚       12.3
 3位  甘いもの    10.7
 4位  刺身      9.5
 5位  寿司      6.4
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(複数回答可:何でもおいしく食べる15.1%)




 
      
□ 老化を防ぐホルモン「クロトー」の発見

 老化を防いで寿命を延ばす働きのあるホルモン「クロトー」を、アメリカ・テキサス大学(University of Texas Southwestern MedicalCenter at Dallas)の黒尾誠(Makoto Kuro-o)助教授らが発見しました。このホルモンは動脈硬化、虚血性心疾患、脳卒中、ガン、糖尿病、骨粗しょう症、認知症など加齢とともに起こる様々な生活習慣病について、一括して発症を遅らせたり、症状を軽くすることができるのではないかと考えられています。

 発見のきっかけは、高血圧の研究をしているとき、偶然にできた突然変異マウスでした。このマウスは通常のマウスより老化が著しく早かったため、その原因を調べたところ、ある遺伝子がないことが分かりました。そのため、この遺伝子には、老化を抑制する作用があるのではないかと考え、運命の女神に因んでクロトー(Klotho)と名付けられました(文献1)。そして、この遺伝子から作られるクロトー・タンパク質が不足すると、生活習慣や加齢に関係する動脈硬化や骨粗しょう症などが発症することも分かりました。

 次に、黒尾らは、この遺伝子をマウスに導入して、通常より2〜2.5倍多くクロトー・タンパク質を体内で作らせたところ、寿命が20〜30%も長くなりました(文献2)。通常のマウスの寿命は2歳前後なのに、このクロトー遺伝子を導入したマウス中には3歳に達したものもでました。このことを単純に人間に当てはめると120歳になるそうです。また、このクロトー・タンパク質は、脳や腎臓でつくられ、一部が血液で運ばれ、インスリンの作用を制御していることも分かりました。

 さらに研究が進み、11月11日発行の科学雑誌JBC(文献3)にクロトー・タンパク質が体内の酸化的障害を防止することが見いだされたと報告されました。DNAや脂肪、タンパク質などが酸化を受けると細胞の機能が劣化し、老化すると考えられています。そのため、酸化を誘導する活性酸素の過剰生産を防ぐと老化が抑制できるとされています。

 クロトー・タンパク質は、スーパーオキシド・ジスムターゼ(SOD)の発現を誘導するFoxOと呼ばれる転写因子を活性化することが今回発見された。SODは、フリーラジカルの過剰生産による酸化ストレスの増加を防ぐ作用があります。従って、この結果からクロトーは活性酸素の発生を抑制し、寿命を延ばすと考えられます。

 老化に関する研究は進展していますが、今まで、ほ乳類の寿命を延ばせたと報告されているのは、体に取り込むカロリーを制限(食事制限)した研究だけでした。老化を制御すると考えられる遺伝子はすでに報告されていますが、それらの遺伝子をほ乳動物の体内で発現させても寿命は延びませんでした。黒尾らの発見した「クロトー」は、ほ乳類でも老化を抑制し、寿命を延長できることを、世界で初めて遺伝子・タンパク質レベルで実証したので世界中が注目しています。

 クロトーと食生活との関わりは全く分かっていませんが、血糖値の適正化や過剰の活性酸素の除去を介して寿命や生活習慣病を予防できるとするメカニズムは、食生活改善による生活習慣病予防のメカニズムと矛盾しないどころか良く一致しています。そのため、相乗効果が期待されます。将来、クロトーと食生活との相互作用が発見される可能性もあると予測しています。

【文献】
1) Kuro-o, M., et al.: Mutation of the mouse klotho gene leads to a syndrome resembling ageing. Nature.390: 45-51. (1997)

2) Kurosu, H. et al.: Suppression of Aging in Mice by the Hormone Klotho. Science, 309: 1829-1833. [DOI: 10.1126/science.1112766] (2005)

3) Yamamoto, M., et al.: Regulation of Oxidative Stress by the Anti-aging Hormone Klotho. J. Biol. Chem. 280: 38029-38034. [doi: 10.1074/jbc.M509039200] (2005)

用語解説

▽スーパーオキシド・ジスムターゼ(SOD)
 SODとは、活性酸素をそれほど有害ではない過酸化水素(H2O2)に変換する酵素で、生体内の各組織に広く分布している。そのため、SODの体内濃度が高いほど長生きできるの可能性が高いとされている。SODの酵素活性部位には銅、亜鉛、鉄、マンガンなどの金属が結合している。

▽フリーラジカル
 フリーラジカルとは、他の分子から電子を奪う力が強い不対電子を持つ原子や分子のことで、活性酸素などがある。

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☆研究者のためのクロトー遺伝子・タンパク質情報

UniProtKB/Swiss-Prot entry
http://au.expasy.org/uniprot/O35082




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