|
人の健康の維持・増進を目的とする分野では、定期的に専門家が集められ、食品などの健康機能を科学的根拠に基づいた評価を行っています。その代表的な例が、1997年にアメリカガン研究所などがまとめた報告です。その報告では、ガンのリスク下げるか、上げるかについて科学的実証レベルを6段階で評価し、リスクを下げる評価として実証レベルの高い順に、「リスクを下げる証拠がある(decreases
risk convincing)」、「恐らくリスクを下げる(decrease risk probable)」、「リスクを下げる可能性がある(decrease
risk
possible)」として表しました。
「リスクを下げる証拠がある」とは、ガンのリスクを下げるとする科学的根拠が揺るぎないもの、「恐らくリスクを下げる」とは、一部の論文では肯定的な結論は出ていないが、他の多くの肯定的な論文から推してリスクを下げると科学的に考えて良いもの、「リスクを下げる可能性がある」とは、リスクを下げるとする有力な論文は多いとはいえ、肯定的ではない論文もあり、科学的に因果関係が明らかになったとまではいえないが、疾病予防のためには摂取を推奨できるものです。
2003年3月に国際的なガンの専門家が、国際ガン研究機関(International
Agency for Research on Cancer:
IARC)に召集され、果物と野菜の摂取とガン予防についての評価会議が行われました。会議では、バイオマーカーを利用した疫学系の研究やガン発現機構に関する実験系の研究などの論文を精査し、果物と野菜の摂取は様々なタイプのガンに対して予防効果があると評価しました。
果物のガン予防効果は、食道、胃、肺のガンのリスクを「恐らく下げ」、口腔、咽頭、喉頭、直腸・大腸、腎臓、膀胱のガンのリスクを「下げる可能性がある」としています(表)。同様に野菜の摂取は、食道、直腸・大腸のガンのリスクを「恐らく下げ」、口腔、咽頭、喉頭、胃、肺、卵巣、腎臓のガンのリスクを「下げる可能性がある」としています。果物は、ガン予防に対して野菜と比べて勝るとも劣らないと評価されています。国際ガン研究機関が行った果物と野菜摂取とガン予防に対する評価は、アメリカガン研究所などがまとめた果物と野菜のガン予防に対する結論(1997)を大筋で有効としています。
今年に入って野菜や果物の摂取量と大腸ガン発症との関係を調べた疫学調査結果が公表されました。40-59歳の男女計88,652人について7-10年追跡調査した結果、野菜の摂取量と大腸ガン発症との間には差はなく、果物摂取による大腸ガンの予防リスクは0.92となり、予防効果が認められたが統計的な有意差はなかったとしています。
綿密に計画された疫学調査結果は尊重されなければなりませんが、先にも述べた通り、1つの調査結果だけで食品の評価が決まるわけではありません。科学的に総合判断された国際ガン研究機関の「果物摂取は大腸ガンのリスクを下げる可能性がある」とする評価を変更する必要は今のところないと思います。
表.IARCによる果物・野菜のガン予防効果 ------------------------------------- ガンの種類 果物 野菜 ------------------------------------- 口腔
↓ ↓ 咽頭 ↓ ↓ 喉頭 ↓ ↓ 食道 ↓↓ ↓↓ 肺
↓↓ ↓ 胃 ↓↓ ↓ 直腸・大腸 ↓ ↓↓ 腎臓 ↓ ↓ 膀胱
↓ 卵巣
↓ ------------------------------------- ↓↓:恐らくリスクを下げる ↓ :リスクを下げる可能性がある
|
|
|