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■ 果物摂取で糖尿病予防

      
□ 果物と糖尿病予防

 厚生労働省の糖尿病実態調査によれば、糖尿病の治療が必要な患者数を約740万人と推定しています(2002年調査)。糖尿病は、血液から糖の取り込みに働くホルモンであるインスリンの作用不足のために、血液中の糖含量が高まり、様々な合併症が引き起こされる疾病です。糖尿病には2つのタイプがあり、1つは、自身のインスリン分泌が著しく阻害されるため、生命の維持にインスリンの投与が絶対的に必要なインスリン依存型糖尿病(T型)で、もう1つはインスリン非依存型糖尿病(U型)です。日本人の糖尿病患者の95%以上を占めているU型糖尿病は、一般に中年以降に発症が多く、年齢とともに有病率が増加する疾病で、インスリンの作用不足が起きやすい遺伝的な素因や運動不足、肥満、食べ過ぎ、ストレスなどで発症する生活習慣と深く関係した疾病です。残念ながら、現在の医学ではインスリンの作用不足を根本的に解消することは困難と考えられています。

 しかし、T型糖尿病もU型糖尿病も適切な治療を行うことによってインスリンの作用を改善し、血糖値を良好にコントロールすることができます。このコントロールを長く継続すれば合併症を起こさずに、健康な人と同様な社会生活を送り、寿命をまっとうできると考えられています。

 糖尿病の治療には、食事療法、運動療法、薬物療法の3つの方法がありますが、なかでも食事療法は最も重要です。糖尿病の食事療法で大切なことは、日常生活を送るのに必要な栄養素を補給するとともに、過食をさけ、偏食せず、朝、昼、夕など1日を3回以上に分けて食事を摂取する規則的な食習慣が重要です。

 糖尿病の発症には食習慣の影響を受けると広く認識されています。そのため、糖尿病予防のために適正なカロリーの摂取と栄養バランスのよい食生活が推奨されています。

 アメリカで行われた大規模なヒト介入研究によれば、生活習慣の改善によりU型糖尿病の発症を予防または遅らせることができることが明らかとなりました。対象となったのは、耐糖能障害(糖尿病予備軍:糖尿病にはなっていないが、血糖値が高い状態)の患者3234人に、標準的な生活習慣の改善指導を行った後、生活習慣改善群、服薬群、プラセボ(偽薬)群に分け、1996年から2.8年間、追跡調査した結果、生活習慣改善群で58%も糖尿病の発症が抑えられました。

 また、温州ミカンの摂取量と糖尿病との関係について、6049人を対象とした杉浦実(農研機構果樹研究所(興津))らの研究では、温州ミカンを食べる量が多いほど、糖尿病の罹患率が有意に減少していました。

 アメリカでは、食事と糖尿病に関する疫学研究から、糖尿病を予防するための食事摂取法は、心臓病や脳卒中などの予防のための方法とほぼ同じであるとしています。すなわち、糖尿病予防のためには、果物、野菜、胚芽などを取り除いていない穀類(全粒穀類)、無脂肪の乳製品、豆類、低カロリーの肉類、魚を中心に様々な食品を摂取することが必要としています。特に、食物繊維を多く含む果物、野菜、全粒穀類の摂取の大切さを指摘しています。こうした科学的な成果が、「アメリカ人のための食生活指針2005」に反映しています。

 果物には果糖が含まれているため糖尿病には良くないと誤解されていますが、科学的には果糖と糖尿病の発症との間には有意な関係はないとされています。こうした研究を受けて作成されたアメリカ糖尿病協会(American Diabetes Association)の糖尿病フード・ピラミッド(the Diabetes Food Pyramid:USDA作成のフードガイドピラミッドとほぼ同じ)では「果物は、糖尿病の人も含めて、どんな人にとっても健康によいものです。果物は、エネルギー、ビタミン、ミネラル、食物繊維を与えてくれます。」と記載しています。





□ 糖尿病のためのフードガイドピラミッド

 アメリカ糖尿病協会(American Diabetes Association)は、糖尿病患者のためのフードガイドピラミッド(Diabetes Food Pyramid)を公表しています。このガイドは、糖尿病を患う人々に何を食べたらよいかを分かりやすく知ってもらうために作成されました。

 このガイドでは食品を6つのグループに分け、下部に最も多く摂取する必要がある穀類、デンプングループをおき、上部に、摂取量が最も少ない油脂、菓子、アルコールを配したピラミッドとなっています。各食品グループに示されているサービング量の下限値で食品を摂取すると、およそ1600カロリーとなり、上限値で摂取すると、およそ2800カロリーになります。

 糖尿病のためのフードガイドピラミッドは、アメリカ農務省(USDA)が作成しているフードガイドピラミッドとほとんど同じですが、サービングサイズや分類など、いくつかの点で少し異なっています。その違いは、糖尿病のためのフードガイドピラミッドが、食品に含まれている炭水化物とタンパク質の含有量を基準として作成されているためです。

 例えば、エンドウなどのデンプン質の野菜は、糖尿病のためのガイドでは野菜グループではなく、穀類、デンプングループに含まれています。チーズも糖尿病のためのガイドでは、ミルクグループではなく、肉のグループに分類されています。パスタやめしのサービング値は、糖尿病のガイドでは1/3カップですが、USDAのガイドでは1/2カップとなっています。果実ジュースは、糖尿病のガイドでは1/2カップですが、USDAのガイドでは3/4カップです。

○穀類、デンプン(1日当たりのサービング量:6-11)
 穀類、デンプングループは炭水化物を豊富に含んでいます。また、
 じゃがいも、とうもろこし、えんどう、インゲンマメなどのデンプン質
 の野菜はこのグループに分類します。
・穀類、デンプンの1サービングは:
 パン 1切れ、 米かパスタ 1/3カップ、
 ポテト、エンドウ、コーン 1/2カップ

○果物(1日当たりのサービング量:2-4)
 果物は多くのビタミン、ミネラル、食物繊維を含んでいます。
・果物の1サービングは:
 小玉の新鮮果物 1個、 ドライフルーツ 大さじ2杯、
 メロンかラズベリー 1カップ、 イチゴ 1 1/4カップ、
 果物の缶詰 1/2カップ
 →従って、大きなリンゴなら1日あたり1個から2個となります。

○野菜(1日当たりのサービング量:3-5)
 野菜はビタミン、ミネラル、食物繊維を含んでいます。

○ミルク(1日当たりのサービング量:2-3)
 無脂か低脂肪の乳製品を選んでください。

○肉類(1日当たりのサービング量:4-6オンス)
 肉のグループには牛肉などのほか、魚、卵、豆腐、乾いた豆、チーズや
 ピーナツバターなどを含んでいます。

○脂肪, 菓子、アルコール(1日当たりのサービング量を出来るだけ少なくする)
 ポテトチップ、キャンディ、クッキーの栄養価は高くはありません。
 そのため、特別な御馳走のためにだけにしてください。

下記のサイトに糖尿病のためのフードガイドピラミッドの写真があります(英語版)
http://www.diabetes.org/nutrition-and-recipes/nutrition/foodpyramid.jsp





□ 糖尿病と食物繊維

 糖尿病は症状のない時期が長いため、治療しないまま放置されるケースが多くみられます。しかし、糖尿病は動脈硬化の要因となるだけでなく、悪化すると網膜症、神経障害、腎症などの合併症も引き起こします。

 糖尿病の食事療法では、血糖のコントロールが基本で、必要なエネルギーと栄養素を過不足なくとり、過剰な摂取をさけることが必要です。そのため、毎日、いろいろな食品をとり混ぜて、それぞれ適正な量を食べることが大切です。特に、エネルギー量が少なく、ビタミンやミネラル、食物繊維が豊富な食品を積極的に食べることが推奨されています。

 かって、食物繊維は人の消化酵素では分解されず、栄養素の吸収を阻害する非栄養素として排除され、精製して取り除かれてきましたが、最近の研究から食物繊維は、糖尿病やガン、虚血性心疾患、高血圧などあらゆる生活習慣病と関係が深いことが明らかになりました。食物繊維を多く含む食品は、胃の中に滞留する時間が長く、小腸上部での吸収が遅れ急激な血糖の上昇を防ぎます。また、食物繊維は腸内で脂肪を吸収して排泄します。

 最近、アメリカで糖尿病発症と摂取食品との関係を調査した結果が発表され、食物繊維の摂取量が2型糖尿病の発症率に影響することが分かりました。ハーバード大学のグループは、1909年から1997年までの各食品の消費量と糖尿病の発病率とを比較した結果、摂取カロリーが増大するにつれて糖尿病も増加していくことを明らかにしました。

 この結果は、肥満が糖尿病のリスクを高めるという考えと一致しています。さらに、この報告では食物繊維の摂取量が少なく、コーンシラップの摂取量が多いほど糖尿病の発症するリスクが高くなることが示されました。コーンシラップなどの精白炭水化物を多く含む食品を摂取すると血糖値が上昇するため、膵臓はインスリンをどんどん作らなくてはならなくなります。こうした状態が長く続くと、体内組織は過剰なインスリンに抵抗性を示すようになり、膵臓細胞は疲れきって糖尿病が発症すると著者らは推定しています。

 一方、我が国の糖尿病実態調査(H10)では、糖尿病が強く疑われる人の28.0%、糖尿病の可能性を否定できない人の26.9%が肥満です。食物繊維を多く含む食品はカロリーが少ないため、肥満の防止にも役立ちます。そのため、現在、糖尿病予防のため、栄養学者の多くは、精製された炭水化物を避け、代わりに食物繊維の多い全粒穀物や果物や野菜の摂取を奨励しています。

【用語解説】コーンシラップとは、デンプンを分解してできた糖液で、デンプンの原料が主にトウモロコシデンプンであることからコーンシラップといい、主に甘味料として利用されています。

【文献】Gross, L.S. et al. (2004) Increased consumption of refined carbohydrates and the epidemic of type 2 diabetes in the United States: an ecologic assessment. Am. J. Clin. Nutr., 79: 774-779.





□ 糖尿病発症のメカニズム

 糖尿病には1型と2型がありますが、日本では2型糖尿病の占める割合が9割以上と圧倒的に多いことが知られています。2型糖尿病の発症には食生活が深く関与しており、高脂肪食を続けて食べていると発症すると考えられています。

 人の血液中のブドウ糖濃度(血糖値)は、正常であれば常に一定範囲内に調節されていますが、この血糖値が病的に高まった状態を糖尿病といいます。血糖値を下げるにはインスリンというホルモンが関与していて、インスリンが不足すると糖尿病になります。従って、糖尿病は、糖分の取りすぎが原因と誤解されていますが、インスリンを作るすい臓の機能の低下が原因です。

 2型糖尿病が何故発症するのか良く分かっていませんでしたが、アメリカ・カルフォルニア大学の研究者らは、高脂肪食が2型糖尿病を発症させる分子的なメカニズムを解明し、科学研究雑誌「Cell」に発表しました。

 食事をすると血液中にブドウ糖が増えるので、ブドウ糖濃度を下げるため、すい臓のβ細胞からインスリンが分泌されます。もう少し詳しくいうと、血液中のブドウ糖が増えると、β細胞の膜にあるブドウ糖トランスポーター2(糖輸送担体:Glut-2)と呼ばれる膜タンパク質によってブドウ糖がβ細胞内に取り込まれ、この刺激によってインスリンが分泌されます。Glut-2タンパク質は、β細胞内にブドウ糖を取り込むドアの役割をしています。従って、Glut-2タンパク質がうまく働かないとβ細胞からのインスリンの分泌が阻害されるため、血液中のブドウ糖の濃度が下がらなくなります。この現象が2型糖尿病発症の初期段階です。

 Glut-2タンパク質は糖鎖が結合している膜タンパク質で、糖鎖がないGlut-2タンパク質はブドウ糖と結合せず機能不全となってしまい、その結果としてβ細胞内にブドウ糖を取り込めなくなります。そこで、カルフォルニア大学の研究チームは、Glut-2タンパク質の糖鎖に着目し、Glut-2タンパク質に糖鎖を付加するグリコシルトランスフェラーゼ4a(GnT-4a)の遺伝子が発現しないノックアウトマウス作成しました。その結果、このマウスは、ブドウ糖をβ細胞内に取り込むことができず、インシュリンの分泌が阻害されました。このことから、十分な量のGnT-4a酵素がないとGlut-2タンパク質は機能不全となりブドウ糖を取り込めずインスリンの分泌損なわれるため、2型糖尿病が発症すると考えられました。

 この論文が糖尿病研究において世界的に注目されるのは、上記のメカニズムが正常なマウスでも証明されたためです。正常なマウスに、高脂肪食を与えたところ、GnT-4a酵素の活性が低下し、その結果としてGlut-2タンパク質への糖鎖の付加が進まず、インスリンの分泌が阻害されました。この糖尿病発症のメカニズムは、糖尿病患者ではGnT-4a酵素の発現量が少ないことや、2型糖尿病で一般的に観測されるGlut-2タンパク質の機能不全をうまく説明できるだけでなく、疫学研究などで明らかになっている糖尿病と高脂肪食との関係とも矛盾しないことから十分に納得のいく理論です。

 以上の結果は、低脂肪で果物など植物性食品を多く摂取する食生活に改善すれば糖尿病が予防できることも示しています。また、こうした研究によって『果物を食べると糖尿病になる』などの誤解も解ければよいのですが。

【用語解説】
ノックアウトマウスとは:
 特定の遺伝子を働かなくした遺伝子組み換えマウスのことです。ノックアウトは「欠如」という意味で、遺伝子の機能や病気の研究などに使う実験用動物として開発されます。逆に、遺伝子を人工的に導入した場合はトランスジェニック(形質転換)マウスと呼ばれています。

【文献】
Ohtsubo, S., et al.: Dietary and Genetic Control of Glucose Transporter 2 Glycosylation Promotes Insulin Secretion in Suppressing Diabetes. Cell 123: 1307-1321, (2005) [doi: 10.1016/j.cell.2005.09.041]




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