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■ 肥満になりやすい遺伝子の発見

      
 生命の遺伝子情報はDNAに記録されています。DNAは4種類の塩基で構成されていますが、遺伝子情報を担う塩基配列は個人個人で微妙に異なります。多くの場合、DNAの塩基のうち1つだけが欠けたり他のものと置き換わったりしています。DNAの塩基が1カ所だけ別の塩基に置き換わっていることをSNP(single nucleotide polymorphism)と言い、スニップと発音します(複数の場合は、SNPs、スニップスです)。

 人間のDNAを構成する30億塩基のうち、SNPは数百塩基に1ヵ所とかなり大きな割合で発生していると推測されており、こうした違いが個人個人の体質の違いを決めていると考えられています。

 従って、SNPの違いが分かれば、病気にかかりやすい体質とか、太りやすい体質だとかが分かるため、個人個人の体質に合わせた最も良い予防法や治療法の選択が可能となります。こうした個人個人の体質に合わせた医療のことをテーラーメード医療またはオーダーメード医療と呼びます。

 アメリカ・ボストン大学などの研究チームは、太りやすさに関係しているSNPを発見したと科学研究雑誌Scienceに発表しました(2006/4/14)。

 研究チームは、フラミンガム心臓病研究に参加したアメリカ人694人の血液サンプルと体格データ(BMI)を使って、DNAの塩基が置き換わっているSNPと体格(BMI)との関係について86,604カ所を解析しました。

 その結果、遺伝子INSIG2の近くにあるrs7566605と呼ばれる部分にSNPがある人は、そうでない人より1.3倍、肥満になりやすいことが分かりました。

 この遺伝子INSIG2は、コレステロールなどの合成を抑制することが知られており、動物実験でも肥満抑制効果が明かとなっています。そのため、今回見つけられたSNP(rs7566605)の変異により遺伝子INSIG2の働きが阻害されたため、肥満が促進されたのではないかと考えられています。

 また、西欧系米国人、アフリカ系米国人、子どもからなる異なった集団でも、このSNP(rs7566605)は肥満と関係していることが確かめられました。今回の調査では、約10人に1人の割合でこのSNP(rs7566605)が認められたことから、かなり一般的な変異と考えられています。

 肥満は、2型糖尿病、心臓病、メタボリックシンドローム、高血圧、脳卒中やいくつかのガンの原因となっています。そのため、肥満の遺伝子素因であるSNP(rs7566605)の発見により肥満の予防法や治療法の開発とともに生活習慣病の予防にも役立つと期待されています。

 こうした研究が進めば、将来、「あなたは太りやすい体質なので、1日のカロリーを2000kcalに抑えて果物を沢山食べるようにしなさい」といった栄養指導が行われる時代が来るかも知れません。

【文献】
Herbert, A. et al.: A Common Genetic Variant Is Associated with Adult and Childhood Obesity. Science 312: 279-283. (2006) [DOI: 10.1126/science.1124779]



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