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   スロー風土抄    by 大塚栄寿



      

第5回

動物園で動物に見られる人間



 北海道旭川市の旭山動物園で3月15日、単年度の入園者が開園以来はじめて200万人を超えたという。この動物園は、入園者がペンギンと一緒に雪の上を散歩できたり、ホッキョクグマのダイビングがガラス越しに見られたり、動物の見せ方に工夫をこらして人気を集めている。
 2月半ばに旭川市に数日泊まり、富良野や神居古譚近くのゲレンデでスキーをした。その折に、旭山動物園に行ってみた。子どもが小さかったころ、上野や多摩に行って以来だから、動物園に入るのは何十年ぶりだろうか。

 雪の舞う広い動物園をあちこち見てまわり、正直に言って、私は感動した。ここでは、動物たちは見せものではなく、彼らが人間たちを観察し、いきいきと楽しんでいるかのように見えたのである。アザラシは、「ぼくらの泳ぎぶりを見てよ」と言わんばかりに、透明のマリンウェイ(円柱トンネル)の中を気持ちよさそうに遊泳する。アザラシは好奇心がつよく、マリンウェイ越しに人間が見えると寄ってくるのだそうだ。ホッキョクグマが、水槽にむかって飛び込むのも、アザラシに似て透明ガラスで仕切られた水槽の向こうにいる人間の頭が気になるからだという。ペンギンは、地上ではよちよち歩き空を飛ぶこともできない。ところが水中に入ると、まるで空を飛んでいるように泳ぐ。水中トンネルを矢のように泳ぐ姿を見ると、ペンギンも鳥類なんだなあ、と感心してしまう。
 園長の小菅正夫さんによると、それぞれの動物がもつ特徴的な動きを展示する仕方を「行動展示」と名付けた。動物の姿かたちで分類して、おもに檻に入れて見せる従来の方法を「形態展示」、動物の生息環境を園内に最大限再現して展示する方法を「生態的展示」というそうである。旭山では、動物たちがそれぞれの能力を発揮できる行動展示をすることによって、彼らはいきいきした姿を示すことができる、と確信したのだ。

 北海道から帰ってから小菅さんの新刊書を読んで、私は、動物たちを見て感動したわけが納得できた。動物の能力を発揮させる工夫。これは動物にかぎらないだろう。組織のなかの人間だって同じことなんだろう、と思ったのである。

参考図書
 小菅正夫『<旭山動物園>革命――夢を実現した復活プロジェクト』角川書店 2006年




  目の前のホッキョクグマ




入園者を隔てるガラスをなめるトラ




  雪の上を歩くペンギン




 水中を矢のように泳ぐペンギン


(2006.3.20記)



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