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 ■ 食育を通じた地域健康づくり


      
食育運動の意義と問題点

 子どもたちが豊かな人間性をはぐくみ、生きる力を身に付けていくためには、何よりも「食」が重要です。食育基本法では、食育を生きる上での基本とし、知育、徳育及び体育の基礎となるべきものと位置付けています。そのため、様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てることを目標としています。

 一方、社会経済情勢がめまぐるしく変化し、日々忙しい生活を送る中で、人々は、毎日の「食」の大切さを忘れがちです。国民の食生活においては、栄養の偏り、不規則な食事、肥満や生活習慣病の増加、過度の痩身志向などの問題に加え、「食」に関する情報が社会に氾濫する中で、人々は、食生活の改善の面からも、「食」の安全の確保の面からも、自ら「食」のあり方を学ぶことが求められてます。

 また、都市と農村の共生・交流を進め、「食」に関する消費者と生産者との信頼関係を構築して、地域社会の活性化、豊かな食文化の継承及び発展、環境と調和のとれた食料の生産及び消費の推進並びに食料自給率の向上に寄与する運動として展開されています。

 しかしながら、食育運動の現状は、一部先駆的な教師による取り組みがあるものの、児童・生徒を指導する教師自身の知識や体験が不足していることや、農業関係者からの期待が早急で大きすぎるなどの問題点も指摘されています。例えば「学校側に対してどこも同じようにアプローチしてくるのでその対応に追われて辟易している」という教育関係者の声もあることから、どう伝えるかが課題となっています。

地産地消運動の意義と問題点

 地産地消運動とは、「地域で生産されたものを、地域で消費すること」、言い換えれば、「地域で消費されるものを、地域で生産すること」です。
 最近は、「食」の安全について消費者の関心が非常に高くなっており、新鮮で安全な、安心できる農産物が求められています。地産地消運動は、地域でとれた新鮮で安全・安心できる農産物を通じて、作る人、流通する人、加工する人、販売する人、消費する人などが連携し、お互いの顔が見える関係を築いていく取り組みです。また、生産者の顔がみえる農産物を食べたり、いっしょに収穫したりするなど農林産物を通じて交流することにより、地域や農業に対する理解が深まり地域が豊かになることを目標としています。

 「地産地消」は、消費者の食に対する安全・安心志向の高まりを背景に、消費者と生産者の相互理解を深める取組みとして期待されていますが、農林水産業以外での認知度は必ずしも高くありません。家計調査によれば、果物産地と産地の県庁所在地における果物の消費量をみると、生産量の多い県の人が必ずしもその果物を他の県の人より食べているわけではないなど、生産と消費が必ずしも一致していません。従って、生産者と消費者がお互いの考えをもとに「食」と「農」の距離を縮める必要があります。

健康日本21の意義と問題点

 健康日本21は、一人ひとりの健康を実現するための、新しい考え方による国民健康づくり運動です。 この運動指針は、厚生省(現厚生労働省)が提言としてまとめたもので、自らの健康観に基づく一人ひとりの取り組みを支援し、健康を実現することを理念としています。この理念に基づいて、疾病による死亡、罹患、生活習慣上の危険因子など、健康に関わる具体的な目標を設定し、十分な情報提供を行い、自己選択に基づいた生活習慣の改善および健康づくりに必要な環境整備を進めています。健康21は、一人ひとりが稔り豊かで満足できる人生を全し、併せて持続可能な社会の実現を図る運動として2000年に始まりました。

 しかし、健康21の中間評価では、健康状態や食生活など70項目の目標値に対して20項目で悪化していました。野菜の摂取量では292gから285g(目標350g以上)に減少、日常生活の歩数で、は男性が8202歩から7676歩(目標9200歩以上)に、女性も7282歩から7084歩(同8300歩以上)に減っていました。

 肥満の割合では、20〜60歳代の男性で15%以下の目標に対して、97年の24%から02年には29%と悪化、女性では40〜60歳代で20%以下の目標に、25%から26%と悪化していました。20歳代女性では、やせすぎの人が23%から27%に増え、目標の15%以下から遠のいていました。さらに、肥満や糖尿病の患者数が増え、運動量が減っています。そのため、今後の運動の重点化について検討が始まっています。

食と農のを結ぶ健康地域づくり

 「食育」、「地産地消」、「健康日本21」運動の現状をふまえ、今後どのように運動を展開するかを考えると、「地産地消」、「食育」、「健康日本21」の運動を担う担当者が別々に行うのではなく連携し、一体化して行う必要があると考えられます。その連携を支えるキーワードが「健康地域づくり」ではないかと思う。

 私たちは何を食べて生きてきたのか。食べ物はどこからやってきたのか。この食物の種をまいたのは誰か。台風や長雨をどれほど心配したのか。地域で生産された果物などを食べるとどうして健康に役立つのか。元気で健康な村づくりをするためには食生活をどうしたらよいか。

 子供たちがこうした問いを考え、味とともに家族に伝える。「食育」は、食と農を一体のものとしてとらえることから始まると思う。さらに、家族の健康を思う気持ちを結びつけ、地域から食を変える地産地消活動や健康21の運動を通じて健康地域づくりへと発展させることが重要です。そのためには、それぞれの運動を担う農家、行政、医師、教師、保健士・栄養士、研究者の連携が必要です。それぞれが相互に理解しあい地域の健康づくりに取り組めば大きな成果が得られると期待されます。


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