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  ■ 果物の貯蔵技術

      
目 次

  負イオン/オゾン混合ガスを併用した冷温高湿貯蔵庫の開発

  低温貯蔵

  CA貯蔵法

  チルド貯蔵(氷温貯蔵)

  家庭における果物の貯蔵



  

負イオン/オゾンを併用した冷温高湿貯蔵庫の開発

[研究の背景・ねらい]
 果実の品質は鮮度が最も大切なポイントなので、鮮度をいかに保って高品質な果実を消費者に届けるかが流通・貯蔵の課題です。そのために、温度(低温貯蔵等)や気相(CA貯蔵等)の管理に基づく貯蔵が行われています。しかしながら、CA貯蔵庫は、貯蔵施設が巨大となることや出荷の微調整が難しく、また、オウトウ、モモ、ウメ等鮮度劣化の激しい果実のための有効な貯蔵法はありませんでした。そこで、水の動態を制御することに着目し、果実の長期貯蔵法を果樹研究所において開発し、三菱電機が製品化しました。

[成果の内容・特徴]
 果実を長期に鮮度保持できる冷温高湿貯蔵庫は、今まで使われてこなかった高湿度領域を利用する新しい貯蔵法です。高湿度領域ではカビの発生が著しいことが知られていますが、負イオン/オゾン混合ガスによりカビの増殖を抑制できます。
 開発された貯蔵庫は、壁面の断熱を強化した冷却パネルによる輻射冷却方式と、果実表面で結露しないで高湿度(95%以上)に保つ透湿膜加湿方式により、庫内全域を冷温高湿環境に保つことが出来ます。さらに、スイング式発生装置により、高濃度の負イオン(10,000個/cm3以上)と低濃度のオゾン(0.1ppm以下)により庫内全域で微生物の増殖抑制効果が得られます。
 冷温高湿貯蔵庫に貯蔵した果実等では、細胞の膨圧を高く維持できるため、品質劣化にエチレンが関与するニホンナシ等果実、エチレンの関与しないオウトウ、ブドウ等果実並びに低温で障害の発生するウメ等青果物を鮮度良く長期に貯蔵できます。

[成果の活用面]
 負イオン/オゾン混合ガス発生装置を装着した冷温高湿貯蔵庫は、果実に限らず多水分食材の貯蔵に広く応用できます。また、冷温高湿貯蔵庫は、多水分食材を長期に貯蔵するだけでなく、お盆やクリスマスなど特定の日に向けた短期貯蔵にも有効です。ただ、従来の冷蔵庫と異なり、冷温高湿貯蔵庫では、収穫後の水損失が起きないように、なるべく早く庫内に搬入する必要があります。


(独)農業・生物系特定産業技術研究機構果樹研究所
三菱電機株式会社
(2004/04/19記)

 この成果は朝日新聞、日本農業新聞、東奥日報、岩手日報、毎日新聞、時事通信、共同通信、産経新聞、日本経済新聞、化学工業新聞、日経産業新聞などで紹介された(2003/06/11記者発表)。





Copyright 2004-2005 Keiichi Tanaka. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.

 

低温貯蔵

 果実は、収穫後も生命活動を続けており、呼吸をしています。呼吸をすると糖類や酸などが消費されます。糖や酸は、味と関係する成分であることから、呼吸が激しいと風味が損なわれ品質が急速に低下します。逆に、呼吸を抑制すると風味が保たれて品質・鮮度が維持できます。低温貯蔵は、低温により果実の呼吸を抑制して品質を維持する技術であり、経済的で確実な方法でです。通常の冷蔵庫は5℃前後に保たれるものが多いですが、0℃付近まで冷却すると、より長期に貯蔵が可能となります。ただし、低温に貯蔵するとかえって障害が起きるバナナなどの果実もあります。 (2004/06/17記)





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CA貯蔵

 空気中には酸素が21%、二酸化炭素(炭酸ガス)が0.03%存在します。酸素濃度を空気の1/10程度まで下げると、果実の呼吸量が低くなるため貯蔵性が増します。これに二酸化炭素が加わると、いっそう呼吸作用が低下します。低酸素・高二酸化炭素環境では、呼吸の抑制のほかにも、クロロフィルの分解抑制、成熟・老化ホルモンであるエチレンの生成抑制など、種々の代謝が抑制されるため果物などを長期に貯蔵できます。このような雰囲気を装置を使って人工的につくりだす貯蔵法がCA(controned atmosphere)貯蔵で、わが国ではリンゴの長期貯蔵に広く利用されており、周年供給に貢献しています。

 雰囲気を低酸素・高二酸化炭素にするには、貯蔵庫内の空気をプロパンガスで燃焼させて酸素を二酸化炭素に変換して酸素濃度を低下させます。過剰に生成する二酸化炭素は、活性炭に吸着して除去されるため、通常、冷蔵の2倍程度の貯蔵期間の延長ができます。しかし、装置が大型で複雑になるため、貯蔵経費が高くなり、安価な品目に適用することが経済的に難しく、リンゴ以外への普及はほとんど進んでいません。

 果実の種類によって、貯蔵に適した酸素濃度と二酸化炭素濃度が異なり、厳密には品種によっても異なります。極端な低酸素雰囲気では、嫌気呼吸が生じて、エタノールやアセトアルデヒドなどの異臭成分が生成して商品価値が損なわれ、また、高濃度の炭酸ガス雰囲気では、内部褐変や肉質の軟化、異臭の生成などの炭酸ガス障害が発生します。貯蔵に適した雰囲気範囲は比較的狭いので注意が必要です。温度管理が基本であり、CA貯蔵は低温との併用が原則です。 (2004/06/06記)




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チルド貯蔵(氷温貯蔵)

 チルド貯蔵とは、食品の氷結点ぎりぎりの温度で、氷結晶の発生がなく、凍結していない状態を保った貯蔵法のことであり、氷温貯蔵はこのチルド貯蔵をさす商標です。果実など食品の貯蔵性は凍結点に近ければ近いほど、酵素反応や非酵素的反応、呼吸、微生物の繁殖が抑制されため、貯蔵性が増加します。果実に適用した例としてニホンナシ‘二十世紀’の長期貯蔵があります。しかし、果実の凍結点は−2℃付近にあり、凍結すると組織が崩壊するため、チルド領域で貯蔵するためには、極めて厳しい温度コントロールが要求されます。また、果実の凍結点は、品種間差異、年次変異があることから使用できる温度領域は極めて狭いといえます。 (2004/08/02記)



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家庭における果物の貯蔵

 果物は、他の野菜など青果物と一緒に冷蔵庫で貯蔵されることが多いと思いますが、エチレンを発生している青果物と一緒にすると、エチレン作用により熟度が進むので、予想より早く軟化することになるので注意が必要です。また、モモなどは冷蔵庫に長時間保管すると香りが失われます。

 果実の甘味は、ショ糖、ブドウ糖、果糖やソルビトールなどで構成されています。果糖の甘味度は1.15−1.73で、糖類の中で最も高い部類に属しており、あっさりした甘みがあります。β型果糖はα型果糖より甘味度が約3倍高く、冷やすとβ型果糖が増えるため、食べる前に冷蔵庫で冷やすと甘くなります。
(04/06/18記)



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