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街角で、駅の構内で食べた甘栗(チュウゴクグリ)、パリの凱旋門やローマの遺跡近くの露店で買った焼グリ(ヨーロッパグリ)、しかしながら、ニホングリは渋皮剥皮が困難なため焼グリには向きません。世界的にみて経済上重要なクリの種類は、ヨーロッパグリ(Castanea sativa)、チュウゴクグリ(C. mollissima)、アメリカグリ(C. dentata)とニホングリ(C. crenata)です。これら4種類の間には様々な形質の違いがありますが、なかでも渋皮剥皮性はそれらを特徴づける形質です。渋皮剥皮は、チュウゴクグリがもっとも容易で、アメリカグリとヨーロッパグリが続き、ニホングリが最も困難です。
なぜ、ニホングリの渋皮は剥皮しにくいのでしょうか。クリを乾燥させると剥けやすくなるなど、古来から言われている方法を試してみました。確かに、何もしないよりは剥けやすくなりますが、チュウゴクグリのようには剥けません。
そこで、渋皮剥皮が簡単なチュウゴクグリと困難なニホングリの成熟過程における渋皮剥皮性の変化を調べてみました。その結果、生育初期にはニホングリとチュウゴクグリの渋皮剥皮性に差異は認められませんでした。ところが、ニホングリでは生育後期から渋皮は次第に剥けにくくなり、果実の落果とともに急激に剥皮が困難になりました。色々と調べたところ、渋皮の剥皮時間は渋皮中のポリフェノール含量と相関が高いことがわかりました。このことから、渋皮中のポリフェノールは、渋皮と果肉の接着に関与していると考えられました。
このことを顕微鏡を用いて視覚的に確認することもできました。渋皮が剥がれにくくなり始める頃にタンニン細胞(ポリフェノールを含む細胞)があらわれ、剥皮が困難になるにしたがってタンニン細胞が増加しました。そして、剥皮が最も困難な時期には、渋皮と果肉との間にポリフェノールの蓄積が認められました。
渋皮と果肉の接着にポリフェノールが関与しているとすれば、ポリフェノールだけをうまく分解してやれば、渋皮が剥皮できるのではないかと考えました。ポリフェノールの化学的特徴は、6個の炭素が環状構造(ベンゼン環)になっていることです。そこで、フェノールの環状構造を分解する亜塩素酸ナトリウムでクリの渋皮を処理したところ、果肉から渋皮が離れ、反応溶液中に溶解し、果肉の表面を傷つけることなく渋皮を剥皮することができました。
以上の結果をまとめると、未熟なニホングリではチュウゴクグリと同様に剥皮が容易で、ポリフェノール含量も少ないが、収穫期に近づくとポリフェノールの生合成がさかんになり、渋皮の中に蓄積します。果実が落果すると、渋皮剥皮が急激に困難になるのは、落果により渋皮が急速に脱水されるために渋皮の細胞が崩壊し、細胞内に局在していたポリフェノールが細胞の外にでて、渋皮と果肉を接着するため、ニホングリの渋皮剥皮が困難になることがわかりました。現在、果樹研究所では、ニホングリでも渋皮剥皮が容易なクリの品種の育成を行っています。
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