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□ 果樹研究目標と地球温暖化の問題点
1.はじめに
2.地球温暖化防止対策と地球温暖化後の対策、異常気象対策
3.地球温暖化防止対策技術
4.温暖化防止対策と温暖化後の対策の違い
5.果樹農業の課題は何か
6.果樹研究目標の私案
7.産地移動より産地形成が重要
1.はじめに
くだもの・科学・健康ジャーナルのNEWの源流&コラム:編集長 俗世夜話で取り上げた果樹研究の目標と地球温暖化後の対策についてまとめました。果樹研究の目標に、産地移動対策のための研究など地球温暖化後の対策が上げられていますが、緊急の課題なのかどうかについて考察しています(地球温暖化防止のためのCO2削減などの防止対策ではありません)。また、果樹研究の目標についての私案を提案しています。日付順なのでわかりにくいところがあるかも知れません。そのため、読みやすく変更してあります。
2.地球温暖化防止対策と地球温暖化後の対策、異常気象対策
温暖化防止対策とは、温室効果ガス(CO2など)を削減し、基準年に戻すことです。京都議定書の発効によって国際的な義務となった温室効果ガスの1990年比で6%削減するための政府の目標達成計画の骨格が固まりました。今後、石油や石炭などエネルギーに関連する二酸化炭素(CO2)などの排出量が増えると想定し、工場など産業部門の削減幅を大幅に強化することとしています。
2003年度の日本の温室効果ガス排出量は1990年に比べ8%増加しています。2010年の排出量は6%増と想定されるため、目標達成には今後12%の削減が必要としています。このため、エネルギー起源のCO2で4.9%、代替フロンで1.3%、メタンなどで0.3%削減し、森林により3.9%CO2を吸収し、国際間の取引による京都メカニズムによる1.6%と合わせて12%を達成するとしています。
部門別の内訳は、製造業など産業部門が1990年比で8.6%減の大幅な削減目標が課せられました。家庭などの民生部門は大綱では2%減でしたが、排出量が大幅に増えているため、その伸びを抑えることに力点を置き、10.8%増(家庭6%増、オフィスビルなど業務15%増)とし、また、運輸部門は15.1%増と増加を容認しました。
農業に関係した温暖化防止対策では、森林によるCO2の吸収が上げられています。一方、農業関係者の一部に、CO2を削減する温暖化防止対策を、地球が温暖した後の産地移動など温暖化後の対策や、近年の異常気象と混同している向きがあるようにおもいます。温暖化後の対策を行うのは温暖化防止対策が破綻した後に行う施策で、異常気象(台風や冷夏、暖冬など)に対する対策は、温暖化防止対策とは異なっています。
(初出2005/03/05)
3.地球温暖化防止対策技術
環境省は、中核的温暖化防止対策技術として、(1)技術的に有効・確実で早期の効果が見込めること、(2)ソフトに頼る手法ではないこと、(3)公平で普及対象の大きいこと、(4)体系的な普及促進が図れること、(5)新規対策または対策強化が必要であることを上げています。
そのため、技術開発が必要ですが、その対象となる技術は以下の3つのカテゴリーに分類されています。(1)エネルギー利用効率を高めてCO2を排出する化石燃料消費を抑制するもの(省エネルギー対策)、(2)化石燃料の替わりにCO2を排出しない再生可能なエネルギーや未利用エネルギーを活用するもの(代替エネルギー対策)、(3)大気汚染防止等の他分野の環境保全対策であって、温暖化防止にも大きく寄与するもの(他の環境負荷対策)です。
(初出2005/02/13記)
4.温暖化防止対策と温暖化後の対策の違い
我が国の政府をはじめ各国が取り組んでいる温暖化防止対策の中核は、温暖化ガス(二酸化炭素など)の削減で、計画通り行けば、地球は温暖化しないと予測されています。そのため、上記、「中核的温暖化対策技術」の記述からも分かるように技術開発も含め早急な二酸化炭素削減が求められています。
二酸化炭素削減の主な対象分野は、民生部門と運輸部門です。従って、二酸化炭素をあまり発生させない果樹農業においては温暖化防止に寄与出来る部分は限られており、果樹研究における重点研究対象ではないでしょう。もし、地球温暖化防止対策を果樹研究の目標として行うなら、ハウスで使う燃料やビニールの削減対策ですが、他の課題を押しのけて行う必要性はあるのでしょうか。
また、地球温暖化防止対策が予定通り行けば、地球は温暖化しないわけで、温暖化防止対策が失敗することを前提とした産地移動対策などの研究を重点的に進めるのはちょっと変です。そうした研究目標を温暖化防止に努力している人はどう思うでしょうか。
(初出2005/02/13)
5.果樹農業の課題は何か
農林水産省が作成している食料・農業・農村基本計画骨子のポイントの中で、食料自給率の目標が上げられています。そこでは、食料自給率向上に向けた取組が十分な成果をあげていない要因を検証し、@消費面からは、「食生活指針」の取組が具体的な食生活の見直しに結びついていないこと、米等の消費拡大対策が、性別・世代別の消費動向やライフスタイルの変化等を踏まえていないこと、食の安全へ関心が高まっているが、国産農産物の有利さが活かされていないことを上げています。A生産面からは、加工・業務用需要を含め、消費者・実需者ニーズの把握・対応が不十分であること、担い手の育成・確保が不十分なこと、耕畜連携による飼料作物生産が進まなかったこと等から、効率的に農地が利用されず、不作付地・耕作放棄地が増加したこととしています。
そのため、重点的に取り組むべき事項として以下の点が上げられています。消費面からは、@分かりやすく実践的な「食育」や「地産地消」の全国展開、A米を始めとした国産農産物の消費拡大の促進、B国産品に対する消費者の信頼の確保です。生産面からは、@経営感覚に優れた担い手による需要に即した生産の促進、A食品産業と農業の連携の強化、B担い手への農地の利用集積、耕畜連携による飼料作物の生産等を通じた効率的な農地利用の推進です。
この文章を読むと今後の果樹農業において重点的に取り組む課題は、消費拡大策と省力低コスト化による生産の促進が必要と考えられます。果樹研究もその方向で考える必要があるのではないでしょうか。
(初出2005/02/12)
6.果樹研究目標の私案
果実日本2月号(Vol60:56-57,2005)に長野県果樹研究会の植田稔昌会長が「『農は三位一体−哲学、経済学、生物学』で(14)」で、「日本農業にとって自信の湧く、安心できる農業の進路」について述べています。その最後に「主役の農家がいなくなった農業、農村はどうなっていくのか。既に農業生産から止むなく撤退し、細々と自給しながら消費面が増大していく山村の集落があちこちに見られる世になっている‥‥主役は誰なのだろうか」と問いかけています。
農業を振興するとは、農家が元気になることではないだろうか。私たちの研究で言えば果樹農家が元気になる研究を推進することだと思います。
果樹研究の目標の私案
1)新品種の育成
2)省力・低コスト・安定生産技術の開発
3)消費者ニーズに対応した品質・機能性・貯蔵性の向上技術の開発
4)環境負荷低減技術の開発
上記の4項目は、果樹農業の発展のために必要不可欠な課題です。すでにやってきているとの意見もあると思いますが、これらの課題が解決したのかというとそうではないでしょう。むしろやっと、研究の端緒がつかめ、研究が発展しようとしているところです。こうした研究技術の開発による価格競争力の付与、果実の消費拡大が望まれています。
一方、温暖化による産地移動などの温暖化後の対策(防止対策ではない)は果樹農業の主役が現在最も困っている技術開発や果物の消費拡大に応えられる課題なのでしょうか。植田氏の言葉を借りれば、果樹農業の主役が元気になり、自信の湧く、安心できる農業のための研究課題となっているのでしょうか。
(初出2005/02/11)
7.産地移動より産地形成が重要
地球温暖化後の対策が必要だという人たちの理由の一つに産地が移動するのが問題だとしています。だからそのための研究をするのだと。確かに、温暖化防止対策が失敗した場合、産地が移動する可能性があります。とはいえ、地球が温暖化し産地が移動するのは30年後、50年後と予想されます。現在の農業施策の中では、むしろ産地移動より産地形成が求められているのではないでしょうか。
我が国の農産物自給率は40%であり、自給率向上が最重要課題とされています。コメの自給率はほぼ100%ですが、他の農産物は輸入に頼っています。そのため、コメの消費拡大とともに、農地の効率的な利用が求められています。性別・世代別の消費動向やライフスタイルの変化を把握し、こうした動向にあわせて、消費が伸びている農産物の生産を増やす必要があます。そして、そのための農地を転換・確保するとともに、儲かる産地を形成することが重要です。そうすれば、おのずと、新しい担い手を育成・確保できるのではないでしょうか。
産地の移動は気象条件だけでおきるわけではありません。コメからムギへの転換、温州ミカンから「デコポン」、「清見」などその他のカンキツへの転換に見られるように経済的要因などでもおきます。
以上のような理由から、温暖化後に起こる産地の移動より、自給率向上のための新しい産地形成の研究が重要だと思います。そのためには、果物の価格を下げながら果樹農家の所得が増加するための省力化研究や新品種の育成などの研究が求められていると思います。また、農業施策の重点事項に上げられている「食育」や「地産地消」を通じて消費拡大をはかる運動に対する研究面からのサポートも必要です。最近の果樹研究の目標が、農家・農業・消費者の求めと乖離しているのではないかと心配しています。
(初出2005/03/06)
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(2005/07/12記)
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