くだもの・科学・健康ジャーナルHP > コラム > Do our BEST 目次 > 
 果樹農業研究の未来を拓くために Do our BEST
      

□ ゼロックスの崩壊と復活



1.はじめに
2.なぜゼロックスは経営危機に陥ったか
3.結果のみで判断
4.ゼロックスの復活
5.熱い情熱と奮い立たせる未来の姿



 
1.はじめに
 プロセスを重視し、家族主義的な社風で、優良企業だったアメリカ・ゼロックス社が1998年に約9000人のリストラを行いながら販売不振になり、2000年には不正会計疑惑が発覚するなどして経営が崩壊した。しかし、その後、ゼロックス一家の女性社長アン・マルケイヒー氏により復活した。
 アメリカの会社は、冷酷非情で、簡単にリストラするとの印象であるが、ゼロックスは、その中で家族主義的な風土の会社として知られていた。ところが20世紀後半に経営が怪しくなった。この経営危機と家族主義とは関係があるのかどうか興味があった。
 小林陽太郎氏(当時富士ゼロックス会長)がゼロックス凋落について語った記事が日経BP社のサイトにあった(2001年 3月20日付け)。 
(初出2006/3/22)

 
2.なぜゼロックスは経営危機に陥ったか
 なぜゼロックスが経営危機に陥ったかについて小林陽太郎氏(当時富士ゼロックス会長)は次のように語っている。
 経営危機の時、CEOであったリック・トーマンは、改革派とされていた。彼は、CEOになると営業組織と事務機構の改革を行った。しかしどちらも失敗した。
 その理由について小林陽太郎氏は、「こんな重要な改革は、どこの会社でも相当慎重にやるべきものですよ。」と述べるとともに、「体質強化よりもコスト削減で株価を上昇させるという、結果重視の方針に代わった」ためとしている。
 リック・トーマンがCEOに就任するまでのゼロックスは、現場のプロセスを非常に重視していた。それに家族主義的な社風で、社員も役員も、互いにファーストネームで呼び合うほど親しかった。
 ところが、株価が経営判断の基準になり始め、だんだん現場に無理な負荷がかかるようになった。それにもかかわらず、現場の負荷が取締役会に伝わらなくなった。そして、気がついた時には現場も財務もめちゃくちゃになってしまったという。
(初出2006/3/23)

 
3.結果のみで判断
 ゼロックスの崩壊時、社外取締役だった小林陽太郎氏は、取締役会で「株価や財務内容より、現場の雰囲気はどうなんだ」と質問したそうである。しかし、それでも営業現場の情報は伝わってこなかったという。その原因は、経営トップが、失敗を甘く見て、営業の現場を回っていなかったためとしている。
 こうした経営の崩壊を小林氏は、「ゼロックスをここまで追いつめたのは株価ですべてを判断するやり方だ」と述べるとともに、「こんなやり方が長続きするだろうか。」と言っている。
 ゼロックスの崩壊の過程は、論文の数だけで業績を判断する新しい研究組織体制の行く末を暗示しているようである。では、どのようにしてゼロックスは業績を回復したのだろうか。このことについては、昨年、朝日新聞be(2005/1/8)に掲載されたゼロックス会長兼CEOのアン・マルケイヒー氏へのインタビュー記事から見ていきたいと思う。
(初出2006/3/24)

 
4.ゼロックスの復活
 ゼロックスの業績は、2000年に赤字に転落し、負債は186億ドル(約1兆9100億円)に達した。そんな危機のさなかの2000年5月、経営のトップに立ったのはアン・マルケイヒー氏である。彼女は、社員との粘り強い対話で、沈没寸前だった巨艦をわずか3年余りで再生させた。
 彼女は、業績悪化の中でみなが傍観者になっていたことに気づき、社員一人ひとりが、会社の危機を自分の問題としてとらえて対処しなければ再生はできないと考えた。そこで、社員の皆と問題点を正直に話し合った。社員が聞きたかったのは「会社は生き残れるのか」ではなく、「この危機を乗り越えられたら、会社はどんな姿になっているのか」だったという。そうした意思疎通が、皆を本当に奮起させ、改革に本気で取り組んでくれたと述べている。
 マルケイヒー氏は、「ビジネスの世界では論理や事実に基づきがちですが、感情や情熱が占める割合も大きいと思うんです。厳しい状況を乗り越えるには、単に「仕事だから」と思う以上の姿勢で取り組む必要があります。「この船を見捨てることはできない」という責任感や情熱があったからです。頭で考えるというよりも、もっとハートの部分だったと思います。」と言っている。

 ゼロックスの崩壊と復活を二人の発言から見てきたが、その過程で明らかになったのは、組織にとって重要なのは、株価で判断するとか論文数で判断するとかではなく、働く人を大切にするということだ。
 その観点から言えば、今回の組織改革、人事は、研究崩壊の道へ足を踏みだしたと言えるのではないだろうか。研究を進めるにはハートが一番大切である。ハートを踏みにじってどうするのだと私は考えている。
(初出2006/3/25)

 
5.熱い情熱と奮い立たせる未来の姿
 アメリカ・ゼロックス社の最近の歴史を見てきたが、組織を支え、発展させる大切な要素は、組織員の熱い情熱と奮い立たせる未来の姿であることが分かる。逆に、組織が崩壊する時は、多くの組織員が傍観者となってしまうことと、納得できない方針である。
 果樹農業の未来の見えない方針と傲慢な人事は、組織崩壊のセオリー通りに進行するだろう。こうした体制は長くはつづかない。そして、長く続けさせてはならない。
(初出2006/3/26)



ご意見等は読者投稿欄「い・つ・か・の声」までお願いします。
  投稿する(投稿フォーム)





無断転載は、引用を含めて、お断りします。 ご協力に感謝いたします。

Copyright 2004-2006 Keiichi Tanaka. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.





果樹農業研究の未来を拓くために
Do our BEST
目次へ戻る