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カロテノイド発見の歴史
果物などで見られる色とその化合物について多くの研究者が大変興味を持っていました。黄色い色素についての研究は19世紀の初めまでさかのぼることができます。黄色い色素(β-カロテン)を最初に分離したのはWackenroderで1831年のことでした。その後、他の多くのカロテノイドが、1800年代に発見され命名されました。しかし、当時はまだその分子構造は未知のままでした。
WillstatterとMieg(1907年)によって初めてβ-カロテンの分子式がC40H56(炭素が40個、水素が56個からなる化合物)であることが明かとなりました。その分子構造はポール・カーラー(Paul
Karrer,
1930-31年)によって解明されました。この研究はビタミン、プロビタミンの構造を決めた最初の仕事です。そのため、彼は1937年にノーベル化学賞を受賞しました。
1913年McCollumは、バターや卵の黄身にネズミの成長に不可欠な成分があることを発見し、翌年
(1914年)
その成分の抽出に成功しました。この成分がビタミンAです。一方、OsborneとMendel(1913年)は、黄色い色素(カロテンなど)を含む野菜がビタミンAの供給源として有効であることを示しました。
そこで、Steenbock(1919年)は、黄色と白色のとうもろこしをネズミに食べさせたところ、白色のトウモロコシを食べたネズミにはビタミンA欠乏症が現れたのに対して、黄色いトウモロコシを食べたネズミにはビタミンAの欠乏症が現れないことを示し科学雑誌Scienceに発表しました。この実験から、彼は、黄色のトウモロコシに含まれているβ-カロテンが体内でビタミンAに変化すると考え、ビタミンに変化する物質を意味するプロビタミンという新しい概念を提案しました。
人に対する生理作用についての様々な研究は1970-80年代に精力的に行われました。1980年代の早い時期にβ-カロテンが人の体内でおきる酸化を防止する機能があることが分かり、ガンなど生活習慣病の予防に役に立つことが見いだされました。最近では、β-カロテンだけでなく、β-クリプトキサンチンも注目されています。カロテノイドは、抗酸化力が強いため、ガン、動脈硬化、心臓病、関節炎、白内障などの生活習慣病を予防する効果があると期待されています。
β-カロテンなどプロビタミンAは、ビタミンAの安全な供給源です。ビタミンAであるレチノールを過剰に摂取すると障害がでることが知られていますが、β-カロテンは、過剰に摂取しても身体に蓄えられ、必要に応じてビタミンAに変換されるため過剰障害が起きません。そのため、ビタミンAの半分はβ-カロテンやβ-クリプトキサンチンなどから摂取するのがよいとされています。世界的に見てビタミンAの供給源の80%は果物と野菜です。果物ではミカンやアンズ、カキ、ビワなどに多く含まれています。そのため、色のついた果物を食べて健康を維持・増進しましょう。
【用語解説】 カロテノイドとは: カロテノイドは、植物などに多く含まれている色素で、今までに600種類以上知られています。カロテノイドは大きく分けてキサントフィルタイプとカロテンタイプとがあります。この中で、プロビタミンAとして働くのはβ-カロテン、α-カロテン、β-クリプトキサンチンです。カロテノイドは、ドイツ語に由来するカロチノイドと言い表されることもあります。
□ 研究者の横顔:カロテノイドの研究者ポール・カーラー
ポール・カーラー(Paul
Karrer)氏は、1889年4月21日にモスクワで生まれました。彼の両親がスイス人だったため1892年にスイスに戻りました。チューリッヒ大学で化学を専攻し1911年に博士号が授与されました。研究のアシスタントをした後、1912年にフランクフルトで職を得てドイツに移りました。1919年には、スイスに戻りチューリッヒ大学化学研究所の教授になりました。
彼の最も重要な研究は植物色素、特に黄色いカロテノイドについての研究です。1930年に彼は、β-カロテンの正確な分子構造を明らかにしました。この仕事は、ビタミンあるいはプロビタミンと呼ばれる化合物における世界で最初の構造決定で、この業績により1937年にーベル化学賞が授与されました。1930年に書かれた「Lehrbuch
der Organischen
Chemie(有機化学原典)」は英語、イタリア語、スペイン語、フランス語、ポーランド語、日本語に翻訳され多くの化学者に読まれました。
カーラーは1914年にHelena
Froelichと結婚し、2人の息子がいます。1971年6月18日にカーラーは亡くなりました。
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