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第48回
□ サンマを食べられない男の話
男の幼少時代は,第二次世界大戦後の食糧事情最悪の頃であった。
男は体調が悪かった。
悪いことは重なるもので,
その日,少々傷み始めた秋刀魚が食卓に上った。
男は,その晩,ひどく吐いた。
苦しかった。
体調の悪さから,苦しさも重くかさなった。
たくさんの家人がいたが,少年の苦しみに誰も気づかなかった。
男は,その苦しみを全てサンマのせいにした。
以来,男は秋刀魚の焼けるにおいでも,
この時の苦しさをフラッシュバックした。
男は家庭をもったが,彼の家の食卓には,
サンマは,絶えて上らなかった。
ある秋の日,男の妻がいたずらをした。
秋刀魚のミリン干しにゴマをたっぷりとかぶせ,
油で揚げて,時間を置いた。
他人からの頂き物と冷えたゴマサンマを皿にのせた。
半世紀・50年以上もサンマを口にしていない男に,果たしてこの魚の正体が判るか。
「頂き物なの。」
「○○さんに,あなたの感想も伝えたいわ。」
男は,サンマを一口だけ食べた。
「この魚は,何?」
「なんでしょう。イワシかしら?」
しらじらしく答えた。
「サンマだな,この時期,サンマは安いはずだから・・・サンマだ。」と断言し,残りには見向きもしなかった。
「あなたの感想を,なんて言いましょうか?」
店先に新鮮なサンマが並ぶ。しかし秋刀魚を買えない家庭もある。
どんなに加工しても,味わうことができないサンマであった。
(2005/10/27)
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